サイクロン掃除機の性能比較に利用される「吸込仕事率(すいこみしごとりつ)」とは、掃除機が空気を吸い込む能力のことです。単位はワット(W)で表示され「吸引仕事率(きゅういんしごとりつ)」と呼ばれることもあります。
吸込仕事率はJIS規格(日本工業規格)により定められている吸込力の目安です。掃除機のヘッドを外した状態で「風量(吸い込む空気の量)」と「真空度(空気を吸い込む圧力)」を測定し、両方を掛け合わせた数値となっています。
一般的に吸込仕事率が高ければ高いほど、吸引力が強いサイクロン掃除機と言えるでしょう。しかしゴミを吸い込む能力も高いとは限りません。
なぜなら吸込仕事率は「空気を吸い込む能力」であり、実際に掃除をして測定された数値ではないからです。ゴミを吸い込む能力は、吸引力の他にも、ヘッド・ノズルの構造、床の種類、ゴミの量などの条件により大きく左右されるため、吸込仕事率だけでは実際の使用結果を反映しているとは言えません。
→ クリーナー(掃除機)/吸込仕事率はどのように測定しているのか-家電製品Q&A
具体例を挙げると、ダイソンのハイエンドモデル「ダイソン DC46 モーターヘッド」の吸込仕事率は180Wしかありません。
一方、シャープの廉価機種「シャープ パワーサイクロン EC-CT12」の吸込仕事率は450Wです。両者の価格差は50,000円以上。それなのにパワーサイクロンの方が高性能でゴミもよく取れるのでしょうか? もちろんそんな事はなく、れっきとした理由があります。
掃除機の吸込仕事率を高めるには、吸込口から排気口までの空気の流れを真っ直ぐにして、なるべく抵抗を少なくする必要があります。しかしダイソンに代表されるフィルターレスタイプのサイクロン掃除機は、遠心分離を行うために途中で空気の流れを曲げています。これが抵抗になるため、フィルターレスのサイクロン式掃除機は、どうしても吸込仕事率が低くなってしまいます。
片や低価格のサイクロン掃除機は、遠心力が十分でないためサイクロンだけではゴミと空気をきちんと分離できません。
この欠点を補うためにダストカップ上部にフィルターが付いており、取り逃がした微細なゴミをフィルターで除去しています(ハイブリッドサイクロン)。この方式の場合、フィルターが綺麗なうちはゴミを吸込みますが、フィルターが汚れると吸引力が落ちてしまいます。それ故、できる限り吸引力を長持ちさせるために、高い吸込仕事率が必要になるという訳です。
また吸込仕事率が大きくなることにより様々な弊害も発生します。
たとえば吸引力アップのために強力なモーターを搭載すると、運転音が大きくなり消費電力が増えてしまいます。排気の量も増えるためフィルターの性能が追い付かず、汚れた空気や匂いが部屋中に広がる可能性も考えられます。吸い込む力が大きいとヘッドが床に吸い付いて動かしにくくなるというデメリットもあります。
近年は吸込仕事率の他に「ダストピックアップ率」という数値がサイクロン掃除機の性能比較に利用されています。
ダストピックアップ率とはIEC(国際電気標準会議)が定めた規格で、ゴミを吸い込む能力を示しています。測定の方法は、カーペットなどの床面に定められた量のゴミを撒きます。それを一定の速度・動作・回数で吸引し、除去されたゴミの量をパーセントで計測します。
ダストピックアップ率は実際にゴミを吸い込んだ結果を示しているので、吸込仕事率よりも掃除をした時に近い指標となっています。しかしテストの方法が土足を前提とした海外の住宅環境を想定しており、日本の畳やフローリングでの掃除は考慮されていないようです。
これが理由なのかはわかりませんが、ダストピックアップ率を表示するのは海外メーカー製品が中心で、国内メーカーのサイクロン掃除機ではあまり利用されていません。
いずれにせよ吸込仕事率とダストピックアップ率は、大まかな性能比較には役立ちますが、必ずしも「数値が低い=性能が低い」という訳ではないことを考慮しておきましょう。